多重露光概論

知ってはいるけれど理解はしていない、それが多重露光だと思います。

多重露光の基礎となるのは写真学における写真科学や撮影技術であり、土台となる知識の密度と深度や経験の量と質が、この先多重露光を理解し実践・応用するためには重要です。

多重露光概論は、論理的かつPhotographicなアプローチで多重露光撮影をするために必要な技術や理論を解説するものであり、それらを理解し実践する写真家の継続的な努力の手助けとなればと思います。

多重露光を感覚と偶然だけに頼っていては、その創作活動の継続的な成長を期待することはできませんが、写真の基礎知識をベースに多重露光の理論を実践を通して経験的に理解することによって、未知なる可能性に対して実験的なアプローチを駆使して視覚化できると考えます。

失敗と成功

多重露光は成功する確率がかなり低いプロセスで、普通の写真撮影と大きく異なることは失敗作がイメージとして成立しないことです。自立したイメージを作り出すことが最初の目標となります。

多重露光概論に書かれている制作プロセスやロジックを理解すれば、失敗する確率は減りますが、それでもヒット(not bad)は打ててもホームラン(wow)を打つのは難しいでしょう。

実際に制作における頭脳・肉体・時間・お金などのコストに対してリターンが不釣り合いだからこそ、これまでまともな技術書が存在しなかったのだろうと思います。

それでも、多重露光概論とデジタルフォトを上手に組み合わせることで、私自身が経験した0からのスタートではなく、論理的かつ効率的に多重露光を学習することができます。

カメラ

多重露光ができるのであれば、ハーフ判、35mm、中判、パノラマ、ピンホール、大型、デジタル、スマートフォンなど、どんなカメラを使っても問題ありませんが、マニュアル設定が可能で、最高速度のシャッタースピードが高速であり、多重露光の手順が単純なカメラが理想です。

多重露光撮影が不可能ではないハッセルブラッドなどのようなカメラの場合、設定手順が4つ以上ならば、カメラを壊す恐れがあるため使用はやめておいた方がいいです。

基本的にはフィルムサイズが大きくなるにつれて三脚などの機材の重量が増え、身体的な負担と制作コストが増えてきます。ただでさえ多重露光は生産性が低く、被写体探しに次から次へと移動し続ける必要があるので、ビギナーには移動と思考に集中できる負担の少ないカメラを選択した方が、多重露光を継続的に楽しめるのではないかと思います。

多重露光は被写体探しに時間がかかるので、一般的なスナップシューターよりフィルムの消費量は少ないです。35mmフィルムであれば制作コストはそこまで大きくなりませんが、1ロールを撮りきるまでの時間は通常の倍以上になります。

デジタルカメラでは多重露光の機能があるか、多重露光の回数に制限があるのかなど事前に確認が必要です。機種によってはフィルムカメラにはできない合成モードがあります。また、多重露光はしないでソフト上で合成するという方法も選択肢の一つになります。

レンズ

広角レンズは情報量が多い複雑なイメージや、パースを活かした立体的なイメージを作り出せる反面、空や地面などの不必要な要素が入り込みやすいため、イメージ構成が難しいレンズだと思います。日中に広角レンズを使用する場合は、不用意に空がフレーム内に入り込まないように注意しないと、フラットで情報量の少ないイメージばかりになってしまいます。

標準レンズは、自分自身が考えて動きながらフレーミングをすれば、イメージのハイライトやシャドーのエリアを調整できるので、画面構成に自由が利くレンズだと思います。また、広角レンズよりも被写体に寄れるので様々なスケールのイメージを組み合わせることもできます。

望遠レンズは背景を有効に使ったシルエット効果など、イメージをシンプルに捉えることができますが、フレーム内の情報量を増やしたり、空間を立体的に捉えることが難しいレンズだと思います。

機材を増やすことで表現可能なイメージの幅も広がりますが、反面に選択を決断するまでに必要な思考プロセスの負担も大きくなるため、物理的なスペースや重量も合わせて個々人にとって最適な量の機材を携行すれば良いと思います。

装備

基本的にはカメラ内蔵の露出計でも問題ありませんが、マニュアル撮影ができるコンパクトデジタルカメラを露出計代わりに使用すれば、フィルム撮影でも露出過多・露出不足になることはないでしょう。

露光量を調整するために有効なフィルターは、PL、ND、Half ND、Red/Yellow(B&W)などがあります。日中はハレーションを防ぐためにもレンズフードが必要です。必要のない光を極力露光しないためにも、環境に応じてフィルターを使い分ける必要があります。

ストロボは曇天・室内・夜間など光量が不足している環境において、光量やコントラストをコントロールするのに有効なツールとなります。被写体の正面からストロボを発光するとイメージがフラットになってしまうので、できればワイヤレス発光ができる機材を使って陰影のあるライティングができたほうが良いでしょう。

三脚とレリーズは、室内や夜間など場所や時間に関係なく撮影するためには不可欠です。しかし多重露光撮影では被写体を探すために動き続ける必要があるため、体力的にもコンパクトで軽量なものが良いでしょう。

しかし交換レンズや周辺機材などの選択肢が増えたところで、重い荷物が体力を奪うばかりになってしまわぬよう、最初は身軽に気軽に軽快に撮影枚数を増やしていったほうが、多重露光の基礎が身に付きやすいと思います。

撮影

日中快晴時の撮影ではISO100が最適です。使用するカメラの最高速度のシャッタースピードによりますが、ISO400では太陽光の当たる被写体のハイライト部分を-2EV以下で撮影するためには露出調整用フィルターを複数枚使用しなければならないことがあるからです。 

多重露光は快晴時の被写体や環境にコントラストが生じる時刻に撮影するのがベストです。曇りや雨の日ではフラットなイメージになりやすいので多重露光撮影には不向きです。

都市部では夜でもネオン・街灯・照明などの光が溢れていて、同時に暗く光が届いてない空間もあるので、多重露光撮影がしやすい時間帯です。

upside-down

第1露光後にカメラを180°回転してから第2露光をすることでシンメトリーのイメージを作り出す方法が、upside-downです。

イメージをハイライトとシャドーで上下もしくは左右に二分割するコントラストの高い被写体を探すことから始まります。

露光量を抑え気味にすることで、二重露光後に明る過ぎない、メリハリのあるイメージに仕上がります。

upside-downは多重露光の基礎となるシャドー領域の確保や、二重露光時の露光量の調整を理解するためには最適なアプローチとなります。

しかし、慣れてしまえば全てが同じようにグラフィカルなイメージになってしまうため、回転するための基準点を中心からズラしたり、撮影する場所を前後左右にズラしたり、フィルターを使い分けたりなど、何らかの変化を被写体や撮影プロセスに組み込んで最終イメージが不完全なシンメトリーとなるよう調整することで、グラフィカルでありながらも写真的面白さのあるイメージに仕上がります。

360°

フレーム内の中心点を軸にして、カメラを360°回転させながら複数回に分けて露光します。

被写体のハイライト部分に応じてカメラを回転する角度や露光回数を調整する必要があり、露光部分がフレーム内のどこから始まりどこで終わるのかを確認しておかないとアンバランスなイメージになってしまいます。

異なる被写体であっても、ハイライト部分の構造が類似するものであれば、それぞれの露出量やフレーミングを最適化することにより一つのまとまったイメージとして定着させることも可能です。 

多重露光において重要なのは被写体のハイライト・ミッドトーン・シャドー領域を理解して、フレーム内に光を建設的に積み重ねていくことです。フレーム内のどこに何があり、次の露光でどこに何が必要なのかを意識的に考えられるようになることが重要です。

Perspective

2つの異なる空間のPerspectiveを揃えて、フィルム上の情報量や露光量の不足分を互いに補い合うような被写体同士を組み合わせることで、安定した構造を持つイメージに仕上げることができます。

例えば、イメージの中心に消失点のある奥行きのあるイメージを撮影し、そのイメージの未露光もしくは低露光の部分がハイライトになっている別の奥行きのある被写体を探し出し、2つの中心点をずらさないよう構図を決めて、第一露光との露出バランスも考慮したEV値で第2露光を撮影することで、構造的にバランスのとれた一体感のあるイメージに仕上がります。

消失点がフレームの外にある場合においてもPerspectiveさえ揃っていれば、構造的には違和感のないイメージになります。

露光したイメージの形や明るさだけではなく、イメージそのものが持つ性質も把握しておくことで、多重露光のプロセスを別の角度からコントールしたり、実験的な組み合わせをあえて選択することもできるようになります。

DAPH

Distance→被写体との距離(使用レンズの焦点合致最短距離~無限)

Angle→被写体に対するカメラの角度(上⇔下・左⇔右・水平⇔垂直)

Position→被写体を中心とした同心円上での位置(正面~右側~後方~左側)

Height→カメラの高さ(地面~目線~屋上~空撮)

DAPHとは、写真撮影時における被写体に対するカメラの位置や状態を俯瞰的に認識し、撮影したイメージの性質(パース・スケール・構図)を情報化することで、多重露光のプロセスをイメージや明るさだけでなく別の角度から分析する方法です。

多重露光では撮影者の視覚や感性が足枷となる場合があり、無駄な情報や余分な光がフレーム内に入り込み、何の面白味もないイメージになってしまうことが多々あります。しかしそこで客観的に現状を分析できる別の視点や異なる物差しがあれば、さらなる積極的かつ創造的な選択をすることも可能となります。

Exposure Value

ネガフィルムを使った一般的な写真撮影における露出に対する基本的なアプローチは“Expose for the shadows. ’’ であり、シャドー域を優先させフィルム上の情報量を最大化し、現像やプリントする段階で全体のバランスを調整するものです。

多重露光では“Keep the shadow dark.”が基本となり、フィルムに低露光・未露光域を残した状態のままで第2・第3の露光を重ねていくことにより、明暗のある立体的なイメージに仕上げていくという方法です。

露光過多にすれば簡単に白く明るいイメージを作り出すことができますが、光を何度も重ねながらもシャドー領域にも情報量のあるイメージを仕上げるためには、必要最低限の光量となる露出を選択し、さらには加算されていく露光量にも注意を払う必要があります。

Total Exposure Value

一般的な写真と同じように、多重露光のイメージもメリハリのある立体的なイメージに仕上げるためにはハイライトとシャドーの適度なバランスが必要であり、個々の露光量に加え、プロセス全体における合計の露光量にも注意を払う必要があります。

Total Exposure Value=1st EV + 2nd EV (+ 3rd EV…)

露光ごとに重なり合うイメージを想定することは不可能ですが、フレーム内のエリアごとに加算された露光量をイメージして、ハイライト、ミッドトーン、シャドーを意識しながら露光回数や露光するイメージの構図や露光量を調整する必要があります。

多重露光は不可逆なプロセスであるからこそ、露光量の上限や下限を常に意識しながら、建設的かつクリエイティブに露光を重ねていくことが重要です。

ZONE

ZONEとはAnsel Adamsによるゾーンシステムをベースに、多重露光のために改良したものです。 ZONEは、フレーム内のエリアを表すZONE、ハイライトからディープシャドーまでの露光量/明るさの段階を表すZONE、この二つを組み合わせたものです。

ZONEはフレーム内のどこにハイライトやシャドーがあるのかを頭の中でイメージして、次の被写体を最適化するために最低限必要な情報だけを短期記憶にインプットすることで、可能な範囲で多重露光のプロセスを写真科学的にマネジメントする方法です。

撮影時、第1露光のイメージを第2露光の被写体を見つけるまで全てを記憶しておくことはほぼ不可能です。しかし、第1露光したイメージの明るさだけを単純化したイメージであれば記憶に残りやすくなります。そして第3露光が必要な場合は、第1露光と第2露光を合成したものを頭の中でイメージしてから、最適だと思われる被写体を探し出し、構図や露出を調整し撮影します。

露光したイメージを数値化、抽象化して、フレーム内における露光量の過不足を記憶しやすくすることで、多重露光を写真科学的な視点からコントロールし、戦略的に被写体を選択するのに役立ちます。

Buffet

ホテルやレストランで提供されるビュッフェもしくはバイキングは多重露光におけるZONEと類似します。

お皿の上に好きな具材を自由に組み合わせることができますが、食材がお皿からこぼれてしまうまうのはNG。栄養バランスを考えたり、見栄えや彩り良く選択したり、和食・中華・イタリアン・フルーツ・ケーキの上からカレーをかけてもOK。それぞれの好みや空腹状態を考慮しつつ、お皿の上を食材で埋めることができます。

ZONEは、フレーム内のどこに何がどれぐらい露光されて、次に必要なイメージはどのエリアをカバーするべきかを想定することであり、多重露光イメージ撮影時における過不足のない適正露光されたイメージを作るために必要なメソッドだと考えます。

時間軸

多重露光は連続的な選択の組み合わせであるからこそ、一連のプロセスの時間軸を意識しながら、過去の選択に関連付けた現在の選択、未来の選択に余地のある現在の選択などを行う必要があります。

最終的なイメージが不確定だからこそ、あえて余白を多く残す場合や、過不足のない決断を行うなど、状況に応じた判断と瞬発的な決断力が必要になります。

そのためには、露光ごとに被写体の色や形、イメージの性質や構造、Total EVなどを記憶に残しつつ、露光回数が増えるごとに変形していくフィルム上のイメージを見失わないよう頭脳を最大限に使い、次の被写体を探し出すために体と頭を動かし続ける必要があります。

B&W

フィルム現像直後の多重露光イメージは未知数そのものであり、各イメージの特徴や構造を理解してから、統一感や連動性のあるイメージとして印画紙に定着させるまでにはそれなりの時間とコスト、理想を確実にイメージに定着できるプリント技術が必要となります。

暗室作業では一般的な焼き込み・覆い焼きツールに加えて各イメージに最適化したマスキングツールを必要枚数用意し、それらツールを使用した焼き込み、覆い焼き、スプリットフィルター、二浴現像、ブリーチなどを組み合わせ、理想的なイメージへと近付けていきます。

大きなプリントサイズほどイメージのバランスが崩れやすく、同時に手順が複雑化するため、満足のいくプリントに仕上げるのは大変な作業になります。

つまりは、多重露光のネガは基本的にはアンバランスな状態であり、バランスのあるプリントに仕上げるためにはできる限りの事を尽くしていく必要があります。

状態の良くないネガの場合においては減力剤を使ったネガ濃度の調整を行い、化学的にネガを救済する方法も考えられますが、特に大型サイズのプリントにおいてはドラムスキャンを行いネガをデータ化し、デジタルレーザープリンター専用バライタ紙にプリントをした方が、より良い結果に繋がると思います。

別の手順としては、フィルムスキャニングをしてPhotoshopで明るさやコントラストを調整してイメージの着地点を決めてから、暗室でプリントを制作するという方法も考えられます。

Color

まずカラーネガはナチュラルな描写に適しているものであり多重露光に適したものではありません。露光回数が増えるとイメージが低コントラストになり過ぎてしまい、カラーのアナログプリントではコントラストの調整が不十分です。

カラーネガの場合は、フィルムやプリントの性能を理解した上で二重露光に限定し、最適な露光量をコントロールし、暗室での限度内の調整を行うことで、フィルムやアナログプロセスの良さを活かした写真を作り出せると思います。

増感現像やクロスプロセスという選択肢も考えられますが、それならば粒状性も良く、二重・多重露光どちらにも対応できるカラーポジの方が良いと思います。

カラーポジは露出にシビアなフィルムですが、カラーネガよりもコントラストのあるイメージに仕上がるので多重露光に適してます。現在ではダイレクトプリントが存在しないため、インターネガを作るかスキャニングをする必要があります。Photoshopで様々な画像調整が行えるので、多少の露光不足や色味などにシビアになる必要はありません。

デジタルプロセスにおける最大の利点は、Red-Cian、Green-Mazenta、Blue-Yellow、それぞれのチャンネルごとにカラーバランスとコントラストが調整可能なことです。

そもそもカラーフィルムとは光の三原色に反応する複数の異なる乳剤を多層化したものであり、多重露光では各露光ごとに感光する色層が異なることがあり、Photoshopなどを使いカラーチャンネルごとに色彩の強弱・カラーバランス・コントラストを調整することにより、単純にイメージ全体のコントラスを強めるだけでは作り出すことができない、イメージの部分部分にメリハリのある立体的なイメージに仕上げることが可能となります。

このように多重露光はデジタル技術との親和性があり、フィジカルなアナログ撮影と機能性の高いデジタルプロセスを組み合わせることによって、効率的に多重露光の理解を深められ、効果的なイメージ調整が可能なものだと考えます。

Digital

フィルム撮影では1コマという縛りがあり、A地点で撮影した後に10km離れたB地点にある被写体を多重露光するためには移動が不可欠であり、朝日と夕日を二重露光するためには何時間も待ち続けなければなりません。

しかしデジタル撮影であれば、あらゆる被写体を昼夜問わず様々な角度で撮影して作り上げたデータベースを使い、PC画面上であらゆる組み合わせを試すことができます。また、各レイヤーごとに明るさ・コントラスト・色味を調整できるので、フィルム作品よりも細部にこだわったイメージを作り上げることができます。また、大量にある画像のデーベースから最良の組み合わせを探し出すプロセスは簡単な作業ではないため、ディスプレイの多面化やソフトウェアによる自動化など、独自にプロセスを開発していく必要があります。

制約の中から生まれるのがアナログ多重露光表現であり、それとは比較にならないほど自由な環境にあるのがDigital processになります。

高画質のデジタルカメラでなくても、スマートフォンやコンパクトデジタルカメラで撮りためたデータを使いソフト上で様々な組み合わせを試してから、フィルムカメラを使って再撮影することもできるので、デジタルとアナログそれぞれの利点を活かしていくことが一番ではないかと考えます。

組合せ

デジタルイメージを使った自動合成プログラムを内製化した場合

異なる200枚のイメージの中からから2枚を選ぶ組み合わせの総数19,900枚

合成画像の正誤判定を3秒とした場合→約60000秒=17時間÷7日=2.5時間/日   

合成画像の正誤判定を30秒とした場合→約600000秒=170時間÷7日=25時間/日

指数関数的に増加するデータベースに作り出された新しいイメージの正誤判定をして、新しいアイデアを膨らまし、次の撮影時間を確保するなど、デジタルプロセスのアドバンテージとディスアドバンテージをどのように個性と融合させるかが重要なポイントだと思います。

A+B=C

複数のイメージ同士が多重化することによって生み出されるSynchronicity/共時性こそ、多重露光のイメージが自立した一つの視覚言語となりうる重要な要素だと考えます。 複数の被写体が反発し合うのではなくフレーム内で融合することにより、偶然の結果であろうと写真的必然性を感じるphotgraphic imageが生み出されるものだと考えます。

しかし、撮影以前に多重化したイメージを頭の中だけで想定することはほぼほぼ不可能であり、未知なるイメージの魅力や、イメージ同士のシンクロ率など、完成したイメージを実際に見てみるまでわかるはずがありません。

だからこそ、効率的な作業と積極的な挑戦の継続こそが成功への早道だと考えます。一般的な写真と同じように100枚撮れば1枚ぐらいは成功するものですが、100枚を撮影するためには最低でも200回の露光が必要なため時間や体力などのコストが倍以上に必要になります。

この他にもイメージメイキングにおける重要なポイントは、着眼点となるイメージのコアの存在です。露光量や構造に問題はなくとも、そのイメージに何らかの注目すべき部分がなければ、自立したイメージとして成立しないからです。イメージのコア部分から始まり二次的三次的な広がりを見せながらも全体としての統一感がある、そういったものが多重露光特有の性質ではないかと考えます。

コアとなる部分を意識的に選択する場合が大半ではありますが、複数のイメージが重なり合うことにより後発的に生み出される場合もあります。

価値基準

2つのものを組み合わせ新しい意味や価値を作り出すことは、専門性が無くてもセンスや粘り強さがあればある程度の結果は出せるものだと思います。ここで重要なのは、ただ頭の中で想像するだけではなく、カタチになるまでアクションを繰り返すことだと思います。

成功するまで失敗を重ね、失敗作にはない成功例の感触や質感を経験することが、自身の価値基準の形成に繋がるものだと考えます。

試行錯誤の段階でひとつふたつの成功パターンが見つかるとは思いますが、それだけに固執してしまうとワンパターンな結果で終わってしまいます。それでも十分な場合もあるかもしれませんが、未来志向を持ってさらなる失敗の先にある未知へと挑戦することにより、制作における基礎基盤が安定し創作レベルが向上するものだと考えます。

また経験を重ねることによって価値基準が厳しくなり、合格基準も上がることで全体の品質は向上しますが、同時に制作における技術レベルも上げる必要があります。そのためには技術的なブレークスルーを可能にする客観的分析力や専門的知識が、その後の成長には不可欠になります。

このように創造的なプロセスを継続させるためには、知識・技術の積み重ねによる基礎的な土台の安定と拡大が重要であり、より良いものを作るという意欲だけではなく、新しい何かを作るためのアイデアを生み出す発想力と実験を成功に導く実行力が必要だと考えます。

Photographic thinking

多重露光は1つのフレーム内に複数の被写体を組み合わせながら、Black < image < White となるよう光を構築していくプロセスであり、写真化学、機材選択、被写体分析・地理情報・空間認識・気象条件、Total EV、 ZONE、これら全てを統合できる知識・技術・経験・体力が必要だと考えます。

つまりは多重露光とはPhysical & Photographicなプロセスであり、イメージ制作における全てを統合・俯瞰できるPhotographic thinkingこそが重要だと考えます。

結論

多重露光とは見えないものを見ようとする試みであり、未知なるイメージの存在を信じて不可視領域に侵入することであり、それは理想や想像を形にするための技術ではなく、新しい可能性を発見するための手段だと考えます。